ウクライナ

【ウクライナ旅行記】キエフで詐欺師に狙われた話

  キエフに滞在して3週間が過ぎたころ、独立広場周辺に出没する詐欺師に遭遇した。けして油断をしていたわけではないが、3週間滞在してみて身の危険を感じることは一度もなかったし、1年半以上旅してきた都市の中でも上位に入るほどキエフの治安は良い。あまりの治安の良さに、詐欺師の存在をすっかりと忘れていた。

なぜ詐欺師に標的にされることになったのだろうか?

  ことの発端は、5月だというのに私が生活してきた国では考えられないほど陽が長かった。21時を過ぎでも街灯が必要ないほど明るく、街灯に明かりがつき始めるのが21時30分くらい。陽が長く明るい。おまけにこの日は雲一つない青空が広がっており、キエフの街並みを一望できる見晴らしのいい公園に出かけることにした。

  30分くらい景色を見ていると、いつの間にか22時近くになっていた。陽は沈んでしまったものの空はまだ僅かに明るく、完全に暗くなるまでに20分くらいは時間がありそうだった。せっかく公園まで来たので、キエフの中心地にある独立広場に寄ってから宿に戻ることにした。

  独立広場に着くと、休日ということもあり何かイベントが行われていたようだ。広場の前を通る大通りは歩行者天国になっており、遅い時間にしては人が多く行き交っている。通りには家族連れや、カップルが多く、身の危険を心配する必要がないほど平和的な雰囲気だった。広場周辺をふらふらと歩いた後、広場を一望できる展望台に向った。

  展望台に着くと、多くのカップルがそれぞれの世界に浸っているようにみえた。どこの国でも、雰囲気の良い場所には老若関係なくカップルが集まり、愛を育みあっている。確かに昼間に見る独立広場の景色よりも、夜に見る景色のほうがライトアップされて綺麗。3週間の滞在で何度か見た景色であるが、美しさのあまり私まで気分が高揚してしまった。一人でいるのが場違いなほど周りはカップルだらけで、この場に一人でいると孤独なあまり寂しくなってしまう。余計な感情が湧き上がってくる前に、写真をさっと撮って展望台を後にした。

  独立広場周辺の雰囲気がよく、まだ人も大勢出歩いていたので、夜の街をもう少しだけ散歩してから宿に戻ることにした。独立広場からオリンピックスタジアムの方面に向かっていると、徐々に人の数が少なくなっていく。しかし、一人で歩くのが億劫になるほど危機を感じることはなく、キエフの治安は良いなと考えながら歩いていた。

キエフ詐欺師の手口

  地下に降りていく階段を下っていると、ヨレヨレのジャケットを着た40代くらいの中肉中背の男が真横から私のことを追い抜いた。男は3メートルほど私の前に進んだところで、何かを階段に落とした。

  落としたものを見ると、透明のジップロックが2つ落ちていた。その1つにはウクライナの200フリャブリが束で入っていた。いくら入っているのか金額は分からないが、物価の安いウクライナでは生活するのに十分すぎるほどの分厚い札束だ。もう一つのジップロックに目を向けると、100ユーロが分厚い札束で入っていた。キエフに3週間滞在してみて、観光客の私でも必要ない程の金額が札束でジップロックに入っている。

  袋から視線をそらし男の方を見ると、落とした袋を拾わずに袋の近くで立っていた。なぜ自分で落としたことに気がついているのに拾わないのだろうか。偶然にも袋を落としてしまったなら、足を止めずに階段を下りているはず。しかし、袋から1メートルほど進んだところで男は立ち止まっている。

  この時ふと、独立広場周辺に出る詐欺師の話を思い出した。観光客を狙った詐欺で、わざと観光客の前でお金を落とす。観光客にお金を拾ってもらいお金を受け取ると、落としたお金の金額を数えるらしい。お金を数え終わった後に「お金が足りない!!」と騒ぎ出す。すると、待っていましたと言わんばかりに通りすがりの者を装って仲間がやって来る。お金を取ってないなら、財布の中身を確認させてくれと言い出し、さっと財布からお金を抜き取るのが手口になっているようだ。

  そもそもジップロックに入ったお金を抜くのは不可能だし、人が落としたお金を一瞬で抜き取るようなスキルがある人も滅多にいないだろう。

  まさかキエフで詐欺の標的にされるとは思いもしなかったが、手口を知っているので冷静に対応することができた。こうなってくると、男は運が悪く選ぶ相手を間違えしまったように思えてくる。

  私はジップロックを拾うことなく素通りしようと袋との距離をとった。すると男はウクライナ語で「何か落ちてるよ?」みたいなことを言った後に袋を指差した。自分がわざと落としたにもかかわらず、私に拾ってもらうのを待っている。それもそのはず、袋を拾ってもらわないと、詐欺師は次の段取りに進めない。

  結局、袋を拾うことなく素通りした。袋から3メートルくらい進んだところで後ろを振り返ってみると、男は何かぶつぶつと一人ごとを言いながら自分で袋を拾った。偶然落としたのなら、拾って届けていただろう。幸いにも男はまだ詐欺師見習いなのか、やり方があまりにもぎこちなかった。しまいには、私に「袋が落ちてるよ。」とアピールまでしだした。ずいぶん間の抜けた詐欺師だった。もしも、やり慣れた詐欺師だったら、引っかかってしまったかもしれない。

  帰り道はずっと詐欺師のことを考えなら歩いていた。実はドッキリ番組みの悪ふざけなんじゃないかと思いたかった。外国人はお金を落としたら親切に拾うのかという企画。どこの国でもありそうな企画だし、例外として地元の人たちよりも外国人を標的にしたら面白そうな話だ。近くで撮影スタッフが隠れているのではと辺りを眺めてみても、当然のように撮影スタッフはどこにも見当たらなかった。実はそんな企画だったら嫌な思いしなくて済んだのに、現実は残酷だ。

おわりに

  詐欺師に標的にされてしまったが、キエフの印象はけして変わることはない。なによりもここで出会った人は最初こそ無愛想なものの親切で良い人ばかり。ウクライナ語が喋れたらどんなに充実した滞在を送れただろうと日々考えながら過ごしていたくらいだ。

  キエフ滞在中に詐欺師に標的にされたのは一度きり。やはりキエフの治安は安全で安心して出歩ける街である。

 

 

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