タイ

【タイ一人旅】カオサンロードのドミトリーで出会った旅人

     カオサンロードに来てからの3週間は単調な日々が続いた。連日の猛暑、見慣れた街並み、宿の窓から眺める変わらない景色。いい加減別の場所に移動しないと、このまま何もせずにタイでの滞在が終わってしまう。

     快適だった宿を離れ、ドミトリーに数日間滞在してからバンコクを離れることにした。

     世界中からバックパッカーが集まってくるといわれるカオサンロード。最近は廃れ気味という話を聞いたが、それでも世界各国から人が集まってきている。私の滞在したドミトリーでは、チリ、アルゼンチン、スペイン、フランス、インド、韓国、中国などから来ているバックパッカーが滞在していた。

     夕方、ベットの上に寝そべってぼんやりと天井を眺めていると、隣のベットで寝泊まりをしている韓国人の男が話しかけてきた。「旅を始めてどれくらい経つの?」「1年半くらいかな。2016年の9月から。」「1年半?結構長いこと旅しているね。俺は旅を始めて5ヶ月でタイで5カ国目。ジョンだ。よろしく。」

     ジョンの旅は1カ国につき1ヶ月のペースで回っているようだ。私のペースも似たようなもので、1カ国につき平均1ヶ月くらいは滞在している。1ヶ月くらいの余裕があれば、アメリカ、ブラジル、インド、中国、ロシア、カナダ、オーストラリアなどの大国でない限りある程度は見て回ることができる。なによりも、時間に縛られない気ままな旅は最高の贅沢である。

     ジョンは今まで行った国の写真を見せながら、一つ一つ丁寧に説明してくれた。一人旅を続けていると、たまに誰かと無性に喋りたくなるらしい。「韓国を出て、タイに来るまでに5ヶ月かかった。このペースだと、帰国まで2年。いや3年はかかりそうだ。」と笑いながら今後の旅のプランを話し始めた。ジョンの旅はベトナムから始まり、東南アジアを周遊した後は、南アジア、中央アジア、そしてヨーロッパに向かうと言っていた。ヨーロッパを回ったあとは南米に向かい、北上してアメリカから韓国に戻るらしい。

 私の旅はジョンとは違い、アメリカ大陸から始まり北から南に下がっていくルートだった。旅のスタート地点をどこの国から始めるのかで、のちに心象風景も変わっていきそうだ。実際にアメリカ大陸から旅を始めた私には、タイに入国した瞬間に帰国した気分に浸ってしまった。バンコクでは日本車がたくさん走っていたり、セブンイレブンやファミリーマートでは日本語のラベルがついた飲み物やお菓子が売っていたり、日本語の看板を見かけたり、屋台では焼き鳥やたこ焼きが売っていたり、食事も味付けの仕方が似ている食べ物もあった。懐かしい物に囲まれた生活が続くと、帰国した錯覚に溺れてしまう。

     「ところで気になる事があるんだが。」と言いジョンは急に話を変えた。「中南米ってギャングがいて危ないんじゃないの?そんな噂を聞くんだけど。」「中南米って言うと、みんな治安の話を真っ先にするよね。せっかく旅をしているんだから、自分の目で見みるのがいい。常識範囲内で行動してれば問題無いはずだよ。」

  多くを語らずに話を切り上げた。先入観を持って旅をするのは、時に自分の行動を狭める。それにジョンが南米に辿り着く頃には、旅のノウハウが色々と身についている頃だろう。私のアドバイスなど必要ないと思ったし、なにより人の話なんて聞くより自分の五感で感じるのがいい。

     ジョンと話をしていると、ふと中米にいる時のことを思い出した。旅をして5ヶ月目。私はメキシコのオアハカで過ごしていたと記憶している。アジアやヨーロッパの国々にはない土地のスケールがあった。中南米の良いところをざっくり上げてみると、スペインコロニアル時代の美しい街並みに、人懐っこい陽気な人々が暮らす土地。

フレンドリーな人が多く、アジア人が珍しいのか興味を持ってもらえることが多かった。下手くそなスペイン語で喋っていても嫌な顔一つ見せずに話を聞いてくれた。スペイン語のボキャブラリーが増えていくと、少しづつ長い会話ができるようになり、旅がぐっと楽しくなった。

     ジョンは現在40歳のようだが、旅の話をしているときは、10代の希望にみち溢れた少年のような表情を見せてくれた。暗い部屋の中で、開きっぱなしの窓から漏れる自然光に照らされた横顔は自信に満ち溢れていた。旅を始めて5ヶ月。まだ旅は始まったばかりだ。あと半年ほどで旅を終わる予定の私とは対照的に活き活きとしていた。40歳になっても彼のように充実した日々を送りたいと思ったし、希望に満ち溢れている背中は沈んでいた私の心を元気つけてくれた。

 

 

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