インド

【インド一人旅】バラナシにモディ首相とマクロン大統領がやってきた

     バラナシに来て2週間くらいが経とうとしていた。日々散歩をしていると、何やら街に異変が起こり始めていることに気づいた。ガンジス川のガート付近では、必要以上に丁寧に掃除をしている人、建物のペンキを塗り替える人、大きな仮設ステージを作る人、何かイベントでも始まるように準備で慌ただしくなっていった。

     アシガート付近ではインドのモディ首相とフランスのマクロン大統領のポスターが目に付くようになった。街を散歩していると、否応なしに2人の顔が視界に飛び込んでくる。ある時、2人のポスターの写真を撮っていると、後ろから白いターバンを巻いた男が話しかけてきた。「明日の昼過ぎにモディ首相とマクロン大統領がバラナシに来るんだよ。」と教えてくれた。特に興味がなかったので、「へー」と適当に相槌を打ってその場から離れた。

     宿に戻ってモディ首相について調べていると、首相に興味が湧いてきた。少年時代は父親の手伝いでチャイ屋の売り子をしていたようだ。私がインドで訪れた街では、裕福そうに見えない小さな子供達が家庭で経営している屋台、チャイ屋の手伝をしているのを何度も目にした。昔のインドではよくいた田舎町の貧しい家庭に生まれた少年が一転、大国インドの首相まで昇りつめる。サクセスストーリというには話ができすぎている。

     最近は変わってきている話を聞いたが、私の出会ったボート漕ぎの男のように職業は代々伝わっていくと思っていた。チャイ屋は一生チャイ屋のまま。しかし、少年時代の親の手伝いとはいえ、チャイ屋の貧しい売り子から13億人のトップにまで昇りつめる人を見るチャンスが巡ってくるとは思わなかった。最初の無関心から一転、モディ首相を一目見に行こうと翌日が待ち遠しくなった。

バラナシにモディ首相とマクロン大統領がやってきた

     ここがバラナシであることを忘れるくらいアシガート付近は綺麗になっていた。数日前から綺麗に掃除をしていたせいか、普段目に付くゴミがまったく落ちていない。なによりも毎日見かける野良犬、ヤギ、そして野良牛の姿がない。不気味なほど変わり果てた静かな街を歩き、少し早い昼食を食べに向かった。

     街では交通規制が行われており、オートリキシャ、バイク、車が走っていなかった。道の両脇には警察や軍人が待機をしており、問題が起こらないように警備をしている。国のトップが2人来るだけあって、さすがに警備の力の入れように驚いてしまう。青い迷彩の軍服を着た軍人は、当然のようにライフル銃を肩からぶら下げている。警備に慣れているとはいえ、彼らの表情は緊張気味だった。

     午後12時30分、宿を出てモディ首相とフランスのマクロン大統領が通る場所に向かった。通りに着くと、両国の国旗を持った人々が横一列にズラリと並んでいた。何時にここを通るのか並んでいる人に尋ねてみると、13時だったり13時半だったり、14時だったりと、人によって言っている時間が違う。警備をしている警察に聞いてみても、正確な時間はわからないが、もうすぐ通るはずだよと言う。誰も何時に来るか正確な時間がわからないらしい。    1時間近くが経った頃、交通規制された道を一台の黒いセダンが制限速度を大幅に超えたスピードで走り去って行った。そろそろ来る気配を感じた群衆は、国旗を振ってまだかまだかと騒ぎ始めた。警察は興奮気味な群衆が白線から出ないように警備に必死だった。1台の車が走り去った数分後に、1台、2台、3台と続々と車が猛スピードで目の前を走り抜けていく。1台の黒いSUVが走り去ると、大声援が沸き起こった。私はあまりにも早い速度で通るせいか、モディ首相とマクロン大統領をはっきりと見ることができなかったが、おそらく黒のSUVに乗っていたと思う。あるいは別々で乗っていたのかもしれない。

     私はもっとゆっくりな速度で走るパレードみたいなのを想像していた。モディ首相とマクロン大統領が並んでいる群衆に手を振りながら走り去ると勘違いしていた。あわよくばモディ首相と目が合ったら嬉しいなーなど考えていたが、明らかに制限速度を超えたスピードで走り去る光景を前に拍子抜けしてしまった。なんのために1時間も待っていたのだろうか。どの車に乗っていたか、はっきりとわからないほどだった。

     結局、車は30台くらい目の前を通った。交通規制をしているとはいえ前が詰まってくると、車の速度は落ち始めた。政府関係の誰だかわからない要人が、群衆に向かって笑顔で手を振っている。容姿的にフランス政府の人だが、私には誰だかさっぱりわからないし興味もない。私が見たかったのはモディ首相だけだ。

     時間にしてわずか3分くらいだっただろうか。あっけなく幕は閉じてしまった。

     宿に戻る細い道は、多くの集まった人で大混雑。後ろから背中を押されながら、前へ前へと進んで行った。  夕方になると、あの騒がしいバラナシに戻っていた。道脇には早くもゴミが置かれ始め、そのごみを漁るように犬、牛、ヤギが入り混じって食べ物を物色している。それぞれ食べる物が違うせいか喧嘩するわけでもなく、互いに食べれそうな物を必死に嗅ぎ回っている。道の脇では屋台の前に立ってうまそうにプーリーを食べているインド人がいる。そして遠慮気味にのんびりと歩く大きな黒い牛。

     規制がされて静かで綺麗だったバラナシよりも、日常の混沌としたバラナシの方がインドらしくていい。

     宿に戻ると、オーナーと従業員がスマートフォンのスクリーンに釘付けになっていた。オーナーが私の存在に気がつくと「おかえり」と言った後に話を切り出した。「モディ首相見れた?」「いや。すごい速さで通るから、どの車に乗っていたのかわからなかった。黒いSUVに乗ってた?それらしき人を見た気がした。」「黒い車だったよ。俺、目があったしね。」目が合うって動体視力良過ぎだろと思ったが、「それは素晴らしい体験だったね。」と目があったことを称えた。

おわりに

     首相を見れなくて残念そうにしていると、オーナーはスマートフォンのスクリーンを見せてくれた。そこにはモディ首相とマクロン大統領が船に乗ってガンジス川を遊覧している姿が映っていた。「見れなかったのは残念だけど、動画で観れるよ!」とオーナーはニコニコしながら言った。

     動画で観ても・・・仕方ないと思ったが、オーナー達と一緒にしばらく動画を観ていた。念願だったモディ首相を動画越しで観るはめになるとは思わなかった。

 

 

 

 

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